
── 都市をオフィスに翻訳する|Macquarie Groupが求めた「人間中心のワークプレイス」
金融サービス企業としては珍しく、Macquarie Group(マッコーリー銀行グループ)はデザインへの強い関心を持つ企業である。シドニー本社ではガラスのポッドがアトリウムに突き出し、ロンドンオフィスでは流線型の赤い階段が空間を統合する。さらに同社には建築家資格を持つグローバルデザインディレクター、Andrew Burdick(アンドリュー・バーディック)が在籍している。「デザインは Macquarie のビジネス戦略の一部です」と彼は語る。企業が掲げるオープンで革新的、かつ人間中心の価値観は、働く環境にも反映されるべきだという考えだ。


その理念は、ニューヨークのアメリカ本社計画のプロポーザルにも表れていた。提示されたのは単なる要件ではなく、オフィスが提供すべき「人間体験」を定義したデザインドキュメントだったという。設計を担当したArchitecture Plus Information(A+I)は、2022年にこのプロジェクトを受注。旧オフィスで分断されていたチームを結びつけるため、柔軟でサステナブルなワークスペースを構想した。1,100人の社員が創造的に働くための「ビジネスのための機械」、つまり小さな都市のように機能するオフィスである。


A+Iは都市計画の発想を取り入れ、ニューヨークという都市の縮図を内部空間として表現した。オフィスは660 Fifth Avenueの9フロア、計約26万平方フィートに広がり、複数のテラスに約2万5,000平方フィートの屋外空間を備える。計画や素材の選択は、都市的な物語を静かに補強するように構成されている。


── オフィスをつなぐ“アベニュー”|人と光を導く都市的動線
1957年竣工のこの建物は、2022年にKohn Pedersen Foxによって改修され、巨大なガラスパネルのカーテンウォールが導入された。一方で、低い天井高という課題も存在していた。A+Iは多層アトリウムを設ける代わりに、床に最小限の開口を設けながら空間を立体的につなぐ方法を模索する。
その解決策として設けられたのが、斜めにフロアを貫くコミュニケーション階段「Avenue」である。16階西側から10階東側へと対角線状に伸び、最下部にはテラスに面した“タウンスクエア”が広がる。暖かい真鍮色のパンチングスチールで覆われた階段は都市の夕景を想起させ、LED照明がその輝きを強調する。低い天井や周囲のカフェ、ラウンジが人間的なスケールを保ち、開放感と居心地を両立させている。


外周部には個室オフィスを設けず、自然光が届くエリアを共有ワークスペースとして計画した。これは結果として光と空気へのアクセスを“民主化”する配置となった。フロアはビジネスユニットごとに「ネイバーフッド」として区分され、テラコッタ系の色彩がワークエリアを示し、アベニュー沿いには緑豊かな共用空間が広がる。テラスやラウンジ、カフェテーブルなど、あらゆる場所が働くための拠点となり、異なる部署の社員が自然に出会う環境を生み出している。


オフィスが開設されて以来、ハイブリッドワーカーの出社頻度は増加し、テラスでの電話や偶発的な会話、即席の交流が日常的に生まれている。人が行き交うこの空間は、まるでニューヨークの歩道のような活気を帯びている。

INTERIOR DESIGN Magazine, June 2025
english text: rebecca dalzell
photography: eric laignel
firm: A + I(Architecture Plus Information)|site: new york, usa

