
── 空間が語るブランドの物語|OMA New Yorkが描いた没入型エキシビションの構築
世界各地の美術館において、ファッション展はもはや“ブロックバスター”と呼ぶべき成功を収めている。その背景には、ニューヨークのThe Metropolitan Museum of Artで開催されるコスチューム・インスティテュートの年次展、そしてそれに先立つガラをめぐるメディアの熱狂がある。こうした現象は、かつては一部の人々のためのものと見なされていたラグジュアリーブランドを、より開かれた存在へと転換させた。近年では各メゾン自らが展覧会を企画し、グローバルな観客を魅了する戦略を打ち出している。

その成功を支える要素の一つが、圧倒的なスケノグラフィである。
この分野を牽引してきたのが「OMA」のパートナーであり「OMA New York」 を率いる Shohei Shigematsu(重松象平)氏だ。2016年にはメトロポリタン美術館の展覧会『Manus x Machina: Fashion in an Age of Technology』を設計。以降、複数のブランドと協働し、衣服やアクセサリーの展示にとどまらず、制度的歴史や物語性を空間化する環境を構築してきた。
「ファッションには親しみやすさと同時に、日常世界からの距離感がある」と重松氏は語る。空間そのもの、展示物、コンテンツを統合することで、ブランドの物語を没入的に体験させるのである。

── モジュールが生む没入体験|大阪・中之島美術館で展開された空間の旅
その最新事例が、大阪の 〈Nakanoshima Museum of Art(中之島美術館)〉で開催された『Louis Vuitton: Visionary Journeys』である。創業170周年を記念する本展は、2023年に始まったメゾンとの協働を継続するものであった。
重松氏はまず、ルイ・ヴィトンの象徴であるトランクの寸法から着想を得て、積層・反復可能な“レンガ状モジュール”を考案。木枠にモノグラム和紙を張り、内部から発光させたそのユニットは、5層吹き抜けのアトリウムに吊るされた8基の細長いランタンへと展開された。



展示室入口では、実物のトランク138個を用いたジオデシックドームが来場者を迎える。万博建築の半球体を想起させる未来志向の象徴的構造であり、同時期に開催されたExpo 2025 大阪のフランス館とも響き合う。
来場者はその下をくぐり、11のテーマ別ギャラリーを巡る旅へと誘われる。
各空間は建築的に異なる表情を持ち、東京近郊で事前製作・検証されたのち現地で再構築された。展示テキストは充実しつつも、各室の空気感がテーマを瞬時に伝達する構成となっている。

『Asnières』では、創業家邸宅のアール・ヌーヴォー様式ステンドグラスを忠実に再現。『Origins』では竹編み構造体が空間を包み、日本との関係性を示唆する。
『Louis Vuitton and Japan』では畳を想起させる浮遊プラットフォームと光のグリッドが文化的対話を演出する。
さらに『Collaborations』では、Yayoi Kusama や Takashi Murakami らとの協働を、鏡面ドームが万華鏡のように反射し、鑑賞者自身を展示の一部へと巻き込む。


一方でフランスの工房文化も丁寧に再解釈された。
アニエールの工房を再現した『Workshop』、パリ・ヴァンドーム本店のマンサード屋根を抽象化した『Atelier Rarex』など、建築的記憶を再構築することでブランドの物語を立体化。
没入性と写真映えを兼ね備えた空間体験は、ファッション展の新たな到達点を示している。

INTERIOR DESIGN Magazine, October 2025
english text: dan howarth
photography: jérémie souteyrat
firm: oma new york|site: osaka, japan

