
—— ラスベガスからブルックリンまで。素材と光の空間演出が生み出す、忘れがたい体験の設計に迫る。
均質化が進むホスピタリティ市場において、デザイナーたちは、洗練された動線計画、真正性あるストーリーテリング、そして磨き込まれたマテリアリティを軸に、没入型空間をキュレーションしている。ラスベガス・ストリップでは、《Caramella》が1970年代イタリアの世界観を表現。ヒューストンではアジアン・ステーキハウス《Haii Keii》が想像と伝統の境界を曖昧にし、ブルックリンでは《Unveiled》が有機的なシーティングと反射性の高いダンスフロアを備えた地下のリトリートを実現している。
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Place 01:HAII KEII|Houston, Texas
ヒューストンの《Haii Keii》でのダイニング体験は、まるでSF映画のセットに足を踏み入れるかのようだ。飽和した未来的パレットは、『Blade Runner(ブレードランナー)』や『Kill Bill(キル・ビル)』といった映画作品に着想を得ている。
デザイナーの Gin Braverman(ジン・ブラヴァーマン)は本プロジェクトを「日本の旅館をシュールかつシネマティックに再解釈したもの」と表現する。オーナーは、マイアミやラスベガスのように高度にコンセプチュアルなレストラン体験をヒューストンにもたらすことを目指したが、与えられたブリーフは比較的自由度の高いものであった。Braverman 氏は「体験的で、身体的に訴えかける空間」を実現するため、伝統的要素を反転させ、予想外の表現へと導いた。
「桜を使うつもりはなかった」と彼女は語る。約3,000平方フィートの空間は、発光する逆さまの8フィート(約2.4m)の盆栽を中心に構成される。上階を包み込む障子風スクリーンが視覚的連続性を生み出す。さらに、回転する影のプロジェクションによって侍のシルエットが現れ、空間に動きを与える。


来訪者は赤く発光するガラス扉を抜け、エッチング加工されたルーサイト製スクリーンが並ぶ細い廊下を進み、ドラマティックな吹き抜けダイニングへと到達する。黒の左官壁が空間の基調を定め、4,000フィート以上の赤いロープが黒革ブースを包む。これは日本で訪れた餃子店から着想を得たという。ベルベットの張地が質感に柔らかさを加え、パウダーコート仕上げのカウンタートップとスカラップ状の真鍮メッシュ基壇を持つバックライトバーが輝きを放つ。
大胆な赤、ターコイズ、パープルの配色は極めて身体的であり、物理的感覚に訴えかける。中二階の個室は、厚手の黒カーテンと鍵穴状の開口部の奥に配置される。円形の窓は東京の高層ビルを想起させる視覚体験を生む。
本プロジェクトは、照明アーティスト、ファイバーアーティスト、左官職人、家具職人らとの密接な協働によって約18か月をかけて実現した。結果として、光、素材、ムードが絶えず変化する、高度に振付けられた空間体験が完成している。
赤の要素はシーティング全体に織り込まれ、「親密さと覗き見的緊張感のバランス」を生む。トイレに至るまで発光扉や統一された什器が設けられ、体験は途切れない。炭化梁、黒曜石の小石、漆塗りの表面、鏡面仕上げが視覚を歪ませ、巨大な障子スクリーンや逆さ盆栽キャノピーが幻想と現実を交錯させる。
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Place 02:CARAMELLA|Las Vegas, Nevada
バー、レストラン、ラウンジ、そして隠れたスピークイージーを内包する《Caramella》は、ラスベガスに新たな遊び場をもたらした。
かつては分断されたレイアウトだった約880㎡の空間を、Tao Group(タオ・グループ)と Fettle Design(フェトルデザイン)共同代表の Tom Parker(トム・パーカー)が、イタリア文化へのマキシマリストなオマージュとして再構築している。
コンセプトは「1970年代のイタリアン・ディスコ」。音楽と建築が大胆に交差したイタロ・ディスコのムーブメントや、スタジオ54、バイア・デッリ・アンジェリといった象徴的ナイトクラブから着想を得ている。カジノの巨大な動線空間を抜けて到達する立地条件を踏まえ、ファブリックで包まれた前室を設け、スケール感を調整する“減圧室”として機能させた。




内部では、キッチンの既存境界に沿ってゾーニングを再構成し、菓子店、スピークイージー、バー、ダイニング、パティオを連続的に配置。豊かな色彩のファブリックが空間全体を包み込む。
オレンジ、ブラウン、深みのある赤を基調としたパレットは時代性を反映し、ムラーノガラスのシャンデリアや特注家具が、イタリア的な華やかさを強調する。
このプロジェクトは、物語性を軸に据えたデザインアプローチをチームに定着させる転機となったという。
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Place 03:UNVEILED|Brooklyn, New York City
《Unveiled》は、ウィリアム・ヴェイル・ホテルの未活用地下空間を再生したカクテルバー兼クラブである。
L字型地下空間は、複雑な動線、大型柱、設備配管といった制約を抱えていたが、それを活かし「質感、マテリアル、ボリュームにおいて関連性を持ちながら異なる二つの環境」を構築した。Philip Johnson(フィリップ・ジョンソン)やGae Aulenti(ガエ・アウレンティ)らポストモダン建築家へのオマージュ、ヴィンテージ自動車内装のディテールが参照される。レザー、木材、反射ラッカーが基調素材である。



重厚なバールウッドの幾何学的造作、グリーンマーブル、地下から削り出したかのような曲線。天井は黒塗装によりムーディーな印象を強調。
シーティングは多様なテーブルサイズを生成し、空間をアクティブに機能させる。クラブでは中央をダンスフロアとして開放し、DJブースを祭壇のように据える。
ハーフミラーとパンチングメタルが流動的反射を生み、Kawa Lighting(カワライティング)による照明が絶えず空間を変容させる。
三角形の洗面台、反射壁、段状ステージを備えたトイレもまたパフォーマンス空間である。バール合板エントランス、マーブルバー、ディスコボールを想起させる金属壁、苔色のソファ。親密さ、ドラマ性、音響バランスが綿密に設計されている。
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