
── スクラップ&ビルドの次へ、アダプティブ・リユースの現在地。
Progress usually doesn’t mean erasure. More often, it involves listening and designing with the echoes of what came before.(進歩とは、必ずしも過去を消し去ることではなく、多くの場合先行する時間の余韻とともに設計することを意味する。)
ときにアダプティブ・リユースは、単なる実務的判断に基づく。設計者は材料を節約し、歴史的価値を保存し、場合によっては解体を回避する。しかし近年では、それ以上に詩的な営みとなりつつある。関係者は記憶と現在のあいだに対話を生み出し、世界各地で建築家たちは旧建築を再活用しながら、その感情的な重みを新たな空間言語へと翻訳している。過去は制約ではなく、協働者として扱われるのである。
本特集では、世界各地の9つのプロジェクトを通して、リユースが独自の設計思想へと成熟してきたことを示す。建築家たちは対比、レイヤリング、再解釈といった手法を用い、改修そのものを物語として提示した。いわば建築の「IDカード」は更新され、現代において再び認識される存在となっている。
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Case 01:過去を読み解く
巍山崇正書院ブックストア|Weishan Chongzheng Academy Bookstore(設計:Trace Architecture Office|中国・大理)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards 審査員賞|Commercial Renovations and Additions


かつて放棄されていた書院は、いま静謐な空気を湛える書店へと生まれ変わった。中庭には柔らかな光が差し込み、数世紀の時間が流れているかのような感覚をもたらす。設計者は時間の痕跡をデザイン言語の一部として丁寧に保存し、ここでは「時間そのもの」が建築素材となっている。
内部にはガラスや木といった現代的要素が挿入され、歴史的ディテールと静かに共存する。思索的でありながら活気も感じられるこの読書空間には、いまなお歴史が呼吸しているかのような感覚が宿る。
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Case 02:記憶を宿す住まい
ホテル・マシア・カン・ファレス|A House That Remembers: Hotel Masía Can Farrés(設計:SCOB Architecture & Landscape|スペイン・バルセロナ)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards 審査員賞|Hospitality


バルセロナ近郊、モンセラート自然公園に建つ15世紀の農家は、ホテルとして新たな命を与えられた。設計者はまず土地のリズムに耳を傾け、敷地の傾斜と光に沿うようにテラスを形成。地元の石材、セラミックタイル、金属トレリスといった素材が場所の物語を語る。建築は風景の中に無理なく収まり、まるで以前からそこに存在していたかのような自然さを備えている。
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Case 03:労働の記憶を継ぐ
ベッドフォード・バーン改修|Bedford Barn Renovation and Addition(設計:SPG Architects|アメリカ・ニューヨーク)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards Popular Choice賞|Residential Adaptive Reuse Project


地面に沈み込むように朽ちつつあった19世紀の納屋は、修復されたフレームと石壁、そして周囲の野原へと開くガラスの増築によって再生された。内部では風化した梁と新たな仕上げが出会い、食事や団らん、休息のための空間を形づくる。かつて干し草や道具を収めていたこの建物はいま、対話や光、そして記憶を抱える場所となった。
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Case 04:創造のための器
Skylab本社|Skylab HQ(設計:Skylab|アメリカ・ポートランド)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards 審査員賞|Commercial Adaptive Reuse Projects


小さなオフィスを手狭に感じた設計チームは、1940年代の鉄骨倉庫2棟を改修し、創造的な拠点へと転換した。既存構造を活かしながらガラスと自然光を取り込み、内部ではコンクリートと鉄骨に温かな木質空間や高木が組み合わされる。かつての倉庫は、デザイナーやアーティスト、地域コミュニティが集う「生きたスタジオ」となった。
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Case 05:ランドマークの人間的側面
トランスアメリカ・ピラミッド・センター|Transamerica Pyramid Center(設計:Foster + Partners|アメリカ・サンフランシスコ)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards Popular Choice 賞|Commercial Adaptive Reuse Projects


都市の象徴的高層建築は、より温かく接続された場所へと刷新された。レッドウッド・パークの再生、選び抜かれたリテールの導入、地上レベルでの動線の強化によって街との関係性が再構築されている。オフィスはラウンジやウェルネスフロア、会員制クラブを備え、リビングルームのような居心地を提供する。ランドマークに新たなリズムが与えられ、人々を再び都市の中心へと引き戻している。
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Case 06:都市における再生
8899ビバリーブールバード|8899 Beverly Boulevard(設計:Olson Kundig|アメリカ・カリフォルニア)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards 審査員賞|Residential Adaptive Reuse Project


1964年竣工のオフィスタワーは、48戸の住宅へと再構成された。増築部分は既存フレームから後退させ、コンクリート製バルコニーを保存しながら大開口のガラスを導入。トラバーチンの床やブロンズのディテール、屋上テラスが都市との連続性を高める。地域初の高層建築として建てられたこの塔は、より軽やかで透明感ある姿となり、再び活力を取り戻した。
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Case 07:The Modern Vault 現代の金庫
リザーブ|The Reserve(設計:Monolab Studio|シンガポール)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards Popular Choice 賞|Commercial Renovations and Additions


旧電子機器倉庫は、貴重品を保管する最先端の保管施設へと転換された。薄く加工されたオニキスをガラスの間に配した発光するファサードが対比を生み、内部では重厚さに代わって光が主役となる。高いエントリーポータル、螺旋階段、水盤に照らされたトップライトが静かな力強さを与え、実用的な殻は信頼と変容のモニュメントへと昇華した。
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Case 08:Learning in Layers レイヤーとしての学び
ダボス・プラッツ校|School of Davos Platz(設計:CURA Architekten|スイス・ダボス)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards 審査員賞|Institutional, Primary and High Schools


1960年代の校舎は解体ではなく更新が選ばれた。既存構造の上に木造躯体を重ね、省エネ性能の高い外皮で包み込むことで40%を保存。木とコルクが温かみを生み、自然換気が機械設備への依存を減らしている。2年で完成した本プロジェクトは、持続可能性が経済性と美しさを両立し得ることを示している。
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Case 09:Nature Restores the City 都市を回復する自然
小河公園|Xiaohe Park(設計:浙江大学建築設計研究院+隈研吾建築都市設計事務所|中国・杭州)
▶︎ 受賞:13th Architizer A+Awards 審査員賞+Popular Choice 賞|Architecture +Adaptive Reuse


かつて運河を遮っていた石油貯蔵施設は、公園と文化拠点へと転換された。倉庫やタンクは劇場や商業施設、交流空間となり、ETFEキャノピーが建築群を織物のように結びつける。このプロジェクトは都市と水辺の関係を回復し、忘れられた土地を共有の記憶へと変える設計の可能性を示している。
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本記事は、「Architizer(アーキタイザー)」による『Adaptive Reuse in 2025: How Architecture Keeps Learning From Its Own Past』を、日本語でご紹介する記事です。
Architizer Magazine
English text: Ifeoma Nduka
About Ifeoma Nduka:An architect and freelance architectural writer, Ifeoma brings experience in design and project management to her work. She explores the intersection of design, functionality and storytelling, translating architectural concepts into compelling narratives while offering insights on trends, projects and industry innovations.
※本記事は、Material Bankのグループメディアである「Architizer(アーキタイザー)」の記事を翻訳・編集したものです。実際の英文記事はこちら。

