

イタリアの老舗菓子メーカー「Loacker(ロアカー)」の2層構成フラッグシップ。メザニンからは、ブランドを象徴するウエハースを思わせる、塗装スチールの帯材を幾層にも重ねた特注照明越しに、製造ラボを見下ろすことができる。
── ブランドのレイヤーを空間化するフラッグシップ建築
Loacker(ロアカー)は、1925年にイタリア・チロル地方の町ボルツァーノで創業した、三代続く家族経営の菓子メーカーである。薄く焼き上げたウエハースと、ヘーゼルナッツクリームをはじめとする層状の構成で、世界的に知られる存在となった。創業100周年を目前に、同社はオーストリア・ハインフェルスにあるフラッグシップ拠点の刷新を決断する。求められたのは、グローバルブランドとしての現在地を示しながらも、製品がもつ「重なり」「質感」「手触り」を空間として体験できる、新しいアイデンティティだった。


設計を担ったのは、Harvard GSD 出身のSandy Attia(サンディ・アッティア)とMatteo Scagnol(マッテオ・スカニョル)による「MoDusArchitects」。こうして完成した《Loacker Galaxy》は、延床約790㎡、2層構成のリテール+カフェ+ラボを内包する建築である。素材構成は明快で、モミやオークといった木材がアルプスのルーツを想起させる一方、ステンレススチールは製造工程の精度と現代性を象徴し、ロゴと同色の深紅のタイルやラミネートがブランドの視覚的記憶を強化する。Attia 氏は本計画を「ステンレス、グリッドと反復、そして製品そのものを建築化すること」という3つの軸で構想したと語る。


About the photos:
アルプスの歴史を想起させる壁面グラフィック、特注ラミネート天板のテーブル、セラミックタイルの床がラボ空間を構成する。格子状のモミ材による下がり天井の下、カフェの中心にはロアカーのウエハース型ステンレスカウンターが据えられている。オークのパネル張りと、クリスティーナ・チェレスティーノによるレザー張りのCorollaチェアが空間を囲む。来訪者はラボでウエハース作りを体験することも、上部のメザニンから見学することもできる。ショップの壁面には、縦型の量り売りキャンディビンが組み込まれている。

── 「商品を見る」というアクティビティから「商品に包まれる」実体験へ
かつて分断されていたエントランス、カフェ、ショップを統合するため、建築家は格子状のモミ材による格天井を導入した。この天井は視覚的な連続性を生み出すと同時に、ウエハースの層構造を触覚的に想起させる装置として機能する。その幾何学は各所に展開され、1階カフェにはウエハース形状のステンレス製カウンターが据えられ、2階のラボ空間では巨大な円形照明を通して、メザニンから製造プロセスを見下ろすことができる。

従来のアウトレット型店舗からの脱却も、大きな転換点だった。
壁面棚に代わって導入されたのは、床から浮かせた回転式のトーテム什器である。高さ約3.6mの立体グリッドが商品を展示し、来訪者をブランドの内部に引き込む。家具や什器にも同様の思想が貫かれ、厚みのあるオーク天板のテーブルや、曲線的な縁取りをもつレザーチェアが、空間に恒久性と柔らかさを与えている。
屋外にはカラマツ材によるパビリオンとヘーゼルナッツガーデン、遊び場が設けられ、体験は建築の外へと拡張される。
現在では1日最大3,500人が訪れるこの施設は、ブランド体験を「売り場」から「空間そのもの」へと更新した好例といえる。

About the photos:
既存の石床から浮かせるように設置された、回転式の特注ステンレス製トーテム。
円形、正方形、長方形、アーチといったロアカーのクッキー形状がラボ内で立体化されている。
駐車場とカフェ入口の間に建つ、CNC加工されたカラマツ材のパビリオン。
INTERIOR DESIGN Magazine, September 2025
English text: Petra Loho
Photography: Marco Cappelletti
firm: modusarchitects|site: heinfels, austria

