
今回ご紹介するのは、テキサス州フォートワースに新たな社交とアートの拠点を築いたともいえる〈Crescent Hotel(クレセント・ホテル)〉。施工を手掛けたのは “INTERIOR DESIGN AWARD” への殿堂入りも果たした Lauren Rottet(ローレン・ロテット)率いる「Rottet Studio(ロテット・スタジオ)」。
── Fort Worth(フォートワース) という都市を映すホテル

Rottet 氏は、世界中でホテルやオフィス、住宅を手がけてきたが、彼女自身はテキサスで生まれ育ち、学び、そして事務所を設立した人物である。だからこそ、ダラスから西へ30マイルに位置する人口100万人規模の都市、フォートワースをどう語るかには説得力がある。
「フォートワースは静かで気取らない街。歴史ある資産家や壮麗な邸宅が多く、同時にとてもダイナミックで社交的でもあります。」と Rottet 氏は説明する。
大学町でもあるこの街には熱狂的なフットボール文化が根づき、2023年にはテキサス・クリスチャン大学のホーンド・フロッグスが Big 12 のチャンピオンとなった。かつては畜牛産業とストックショーで知られた「カウタウン」の愛称を持つ街だが、近年はエンターテインメントやアートの拠点として独自の存在感を確立しつつある。


── 美術館と呼応するデザイン

その「アートの街」としての顔を決定づけているのが、Camp Bowie Boulevard(キャンプ・ボウイ・ブールバード)に並ぶ三大美術館 ── Kimbell Art Museum(キンベル美術館)、the Modern Art Museum of Fort Worth(フォートワース現代美術館)、Amon Carter Museum of Art(アモン・カーター美術館)である。Rottet Studio のヒューストンオフィス、オースティンオフィスの両オフィスに所属する “all-women power team(女性率いるパワーチーム)” は、新設されたクレセント・ホテルを構想するにあたり、これら名門美術館を繰り返し訪れた。
ラグジュアリーホテルは、高級住宅やカニオン・ランチ・ウェルネスクラブを併設する複合開発の中核を成す。美術館群と向かい合う立地ゆえ、参照すべきは建物に展示される名作だけでなく、その壁面や仕上げ材でもあった。三館に共通するのは「一種の木材と一種の石材」という純化されたマテリアル・パレット。そこから着想を得て、Rottet 氏は「可能な限り純粋な構成」を導き出したという。「色彩やフォルムは大胆で視覚的に豊かですが、同時に最小限でもあるのです。」と、彼女は言う。


ホテルの顔となるロビーは、美術館との結びつきを最も強く体現している。白壁は大作の絵画を受け止める余白を持ち、色彩の多くはアートワークが担う。動線計画は緻密に設計され、エレベーター内で扉が閉じる瞬間に見える景観にまで配慮されている。
床は1972年竣工のキンベル美術館(設計:ルイス・カーン)と同じ淡いオーク材。構造柱の一部はフィリップ・ジョンソン設計によるアモン・カーター美術館(1961年)の石灰岩で包み、他の柱は意匠的に隠されている。ひとつは多面体の漆喰暖炉に取り込まれ、20世紀初頭のスペイン・ミッション様式を抽象化して表現。もうひとつはフローティングパーティションの背後に隠され、さりげない溝で縁取られて額縁のように扱われ、そこにはマデリン・ペッケンパウによる油彩作品が飾られる。
── 社交の場としてのダイニング

飲食空間の設計においてスタジオが目指したのは、時間帯や客の流れに応じて拡張・縮小でき、複数のイベントを同時に開催できる柔軟なモジュール構成である。「このホテルではプライベートイベントが中心。パーティーの数をどう同時にこなせるかが課題でした」とロテットは語る。
レストランのオープンキッチンはブロンズ仕上げのスチール枠とガラス引戸で仕切られ、朝食時や夕方の仕込み時も常に“稼働している感”を演出。複数の個室はキッチンや中庭に直結し、ワインセラーを背にした部屋や、ホテル全体のスカイブルーのパレットを最も濃密に表現した「ブルー・ルーム」が象徴的だ。
ホテル内のユニークな内装の中でも、今回注目したいのはクレセント・ホテルのダイニング「Emilia’s」に併設されたプライベートルーム「ブルー・ルーム」。
最も濃密に“空色”のパレットを体現する空間である。籐張りのカスタムチェアと深みあるブルーの内装が調和し、親密でありながらも洗練された雰囲気をつくり出している。大きな丸窓からは自然光が柔らかく入り込み、外部の中庭とのつながりが強調される。


ホテル内で最も祝祭的な空間は、最上階に設けられた隠れバー「Ralph’s」である。ヴィンテージ感を漂わせる家具が配され、開口部を開けば周辺の美術館群を望むことができる。壁面にはArte社の「Pavartina」壁紙や、マクシム・コロスコフによる金箔の壁画が施され、装飾性と現代性が交錯する。ヴィンテージを思わせる多機能シートにはパフォーマンスベルベットが張られ、ラクダの刺繍入りバースツールは、かつてこの土地を所有していた家族の逸話に由来する。1970年代、ニーマン・マーカスのカタログで購入したラクダが金と赤のタッセルをまとって邸宅に届けられたという映像記録が残っており、そのエピソードを意匠に織り込んだのだ。
ブルー・ルームとRalph’s──静謐な食体験と華やかな歓待。その対比が、ホテル全体に宿る「アートと社交の融合」というコンセプトを端的に表している。
── 機能性を備えた客室


宿泊客は美術鑑賞目的の観光客から、ウェルネス滞在者、フットボール観戦、結婚式やパーティー参加者まで幅広い。そこで必須となったのが充実したミニバーと収納だ。これらは室内レイアウトの核を成し、バーを室内側に押し込むことでドレッシングスペースを広く確保。買い物袋を置いたり靴を脱いだりできる、到着直後の動作を支える導線が設計されている。クローゼットや造作収納も最大化され、「パーティー用のドレスをどこに掛けるか」という実用的な問いに応える構成となっている。

このようにローカルに根ざした細部が、クレセント・ホテルに本物のホスピタリティを宿している。
「ここを訪れることは、まるで誰かの壮麗な邸宅に招かれたような体験です。もてなしの中心にあるのは歓待であり、まずは一杯のドリンクを手に、一緒に座ることなのです。」と、Rottet 氏は語る。
INTERIOR DESIGN Magazine, October 2024
English text: Jen Renzi
Photography: Eric Laignel