
── 隠された愉しみとは?ディテールに込められた暮らしの体験

建築家 David Montalba(デイヴィッド・モンタルバ)は、サンタモニカに拠点を置いているが、その地と同様にカリフォルニア・マリブの海岸線にも精通している。さらに、スイス・ローザンヌにもヨーロッパの拠点を構え、活動の幅を広げている。パシフィック・コースト・ハイウェイ沿いの一帯には、彼が率いる Montalba Architects(モンタルバ・アーキテクツ)が手がけた「Nobu」「Nobu旅館」「リトル・ビーチハウス・マリブ」など、著名なホスピタリティ施設が並び、その一方で、この20年間に同事務所が完成させた十数棟の住宅は、きわめてプライベートな佇まいを保っている。
最新作は、Montalba 氏が「Graoni House(グラオーニ邸)」と呼ぶビーチフロントのセカンドハウスで、施主夫妻の姓を組み合わせて名付けられた。形式上は改修だが、既存の杭や護岸といった高潮対策の基盤を残したうえで、二層構造の内部は骨組みまで解体し、外装も炭化木材によるレインスクリーンで全面的に張り替えられた。その結果、ほぼ新築同様の建築として生まれ変わっている。


さらに、Matt Blacke Studio(マット・ブラック・スタジオ)の主宰であるインテリアデザイナーの Cliff Fong(クリフ・フォン)氏も協働し、延床面積約2,950平方フィート(約275㎡)の3ベッドルームの住宅が完成した。
両者にとっては初めての協働であったが、それぞれが施主夫妻との関係は長い。クライアントは女性ファッション業界に携わっていることもあり、ヨーロッパやアジアを頻繁に訪れ、そこで希少なデザインピースを収集してきた筋金入りの愛好家である。
Fong 氏は過去30年にわたり夫妻の複数の住宅を手がけており、そのひとつはビバリーヒルズに建つスチール、ガラス、コンクリートで構成されたセミ・ブルータリズムの邸宅だ。
一方 Montalba 氏はロサンゼルスで、磨き上げられたコンクリート床、ラフなスタッコ壁、梁を露出させた天井を特徴とする店舗デザインを夫婦のために手がけている。
── 三部構成で設計された主寝室スイート、海を望む贅沢な日常

「マリブの家は “ビバリーヒルズの分身” とした存在であるべきだった」
と Fong 氏は語る。つまりそれは、有機的で、居心地がよく、誰をも招き入れる空間。シックでありながらも、過度に洗練されすぎたり、誇張的であったりすることはなく、家族が心からくつろげる場である。
さらにそこへ、Montalba 氏の〈二つの大陸を跨ぐ感性〉を反映し、カリフォルニアのクールさとスイスの精緻さが融合する象徴的な建築となった。
その印象は第一印象から明確だ。地上から約16フィート(5m)以上持ち上げられた建物は、ガラス・スチール・木材で構成された二層のテラステッド・ヴォリュームズ(複数の建築物の立体的な形状が階段状・段状に積み重なったデザイン)から成る。特に際立つのは外装材で、杉板を伝統的な焼杉で黒く仕上げた垂直フィンが、岩肌や樹木の点在する周囲の環境に溶け込みつつ、漆黒の華やぎをもたらしている。内部空間もまた、木を基調としたワイヤーブラシ仕上げのダグラスファー材の床・天井、ホワイトオークの造作家具、さらに明るいトーンの石材が用いられている。

「私たちにとって重要だったのは、この敷地へ“どう入るか”という体験でした」
と Montalba 氏は説明する。敷地奥に設けられたエントリーコートは、焼杉の門扉と漆喰を黒く仕上げた擁壁によって定義される小さな圧縮空間で、むしろ眺望を欠くこと自体が演出の一部となっている。しかし扉を抜けてリビングへ入ると、一転して180度に広がる自然のパノラマが目の前に展開する。正面には巨大な石造暖炉を中心に、両側のガラス壁が水平線を切り取り、左手には未開発の隣接崖が手を伸ばせば届きそうな距離に迫る。背後には書斎を介してプライベートな中庭が望め、海に向かって突き出すキッチンとダイニングは、床から天井までの開口部を引き込むことで、ビーチに面したフルワイドのデッキとシームレスに連続する。
外の眺望に目を奪われる一方で、内部空間そのものにも強い引力がある。リビングに鎮座する巨大な暖炉は、まるで自然のモニュメントのようだが、その荒削りの花崗岩のジオメトリーは建築家によって緻密に計算されたものだ。その周囲には、共鳴する美学をもつ調度品が配置されている。自然な木目を活かしたウォールナットのカクテルテーブル、羊毛を掛けた Hans Wegner(ハンス・ウェグナー)のチーク製『CH-22』アームチェア。そしてダイニングには、19世紀フランス製のパイン材テーブルを挟むように Pierre Jeanneret(ピエール・ジャンヌレ)のチークと籐による『Chandigarh(シャンディガル)』チェアが並び、空間全体に一貫した素材感と温度をもたらしている。
── 家具とコレクションが紡ぐ、時間が育んだ調和


キッチンに設えられたオークの造作収納の奥には、この邸宅ならではの小さな愉しみが隠されている。ひとつは、大理石・真鍮・オークを組み合わせたミニマルなバー。もうひとつは、John Pawson(ジョン・ポーソン)による石柱型のシンクと水栓を備えた、静謐なパウダールームである。
いずれも Montalba 氏が掲げる〈クライアントの暮らし方を形づくる、オーダーメイドのディテール〉という信念を体現するものであり、それらを収めた壁は階段室をも隠し、棚には夫妻の蒐集品が並び、上部には可動式のハイサイドライトが設けられている。
二階の主寝室スイートは〈三つの要素からなる矩形のヴォリューム〉と建築家が説明するように構成されている。海を望む専用デッキに開かれたベッドルームの背後には、大型のウォークインクローゼットがあり、そこには窓際に収められたもう一つのライブエッジの天板が小さな書斎機能を担う。さらに、その奥の通路はバスルームへと続き、そこはブレッチア・ディ・ノーラ大理石で包まれたスパのような静かな空間となっている。加えて二つの寝室と浴室が設けられ、子どもたちやゲストを快適に迎え入れることができる。
全体の雰囲気はリラックスしたものだが、その仕上がりは決して偶然の産物ではない。COVIDによる工事の遅延がかえって時間的な余裕を生み出し、Fong 氏は家具を事前にじっくりと選定することができた。ヴィンテージとコンテンポラリー、さらにはクライアントが長年集めてきたコレクションを巧みに織り交ぜ、数十年にわたる多様な出自を持つ品々を調和させることで、彼が自らに課した「この家をパーソナルなものにする」という命題を見事に実現したのである。
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INTERIOR DESIGN Magazine, May 2024
English text: Die Cohen
Photography: William Abranowicz

