
── 歴史を受け継ぐオフィス再生

新聞社のアールデコ建築が、SquareとCash Appの拠点へと生まれ変わる
1878年、米国がまだ38州だった時代に、ハンガリー移民の Joseph Pulitzer(ジョセフ・ピューリッツァー)が経営難に陥っていた2紙を買収・統合し、今日まで続く『St. Louis Post-Dispatch(セントルイス・ポスト=ディスパッチ)』を創刊した。1959年には著名建築家 Mauran, Russell and Crowell(マウラン、ラッセル&クロウェル)設計によるアールデコ様式の社屋へ移転し、2018年まで使用されたが、その後売却された。
現在、その建物は約7,000万ドルを投じた改修を経て、Block, Inc.傘下のSquareとCash Appの新本社として再生された。総床面積約21,000平方メートル、地上6階・地下2階に850人のスタッフを収容し、かつて分散していた拠点を集約。設計を手掛けたCannonDesignは、社員が多様な方法でつながれる「家のようなオフィス」を構想し、大空間から小規模なプライベートエリアまでを緩やかに連続させる計画を実現した。

── 産業遺産を包み込むワークプレイス

旧新聞印刷機とアールデコ建築を生かした多層的オフィス空間
広大な内部には3層吹き抜けのアトリウムが設けられ、階段でより親密な小空間とつながる。執務はデスクのみならず、ソファやラウンジチェアでも可能で、会議は小規模な対話から全社的集会まで幅広く対応。最大1,200名を収容でき、今後の成長にも余地を残す。
本計画を象徴するのは、全長約24メートルの旧ゴス社製印刷機を保存した点である。地階では巨大な鋼構造の合間にラウンジが配置され、頭上に当時の歯車やボタンを望むことができる。かつて街路から稼働の様子が見えた印刷機は、現在も夜には窓越しに人々の活動を映し出す。さらに螺旋階段やピューリッツァーの執務室、テラゾー床も残され、躯体のコンクリート床は低番手研磨により風合いを活かした。産業遺産を尊重するこの再生手法は、CannonDesignが得意とするアダプティブ・リユースの真骨頂といえよう。


── 芸術と理念を織り込むデザイン

印刷機の存在感を核に、アートと社会的使命を重ね合わせる空間
インテリアは意図的に時代性を超えた自然で中立的な構成とされ、露出したコンクリートとオーク材が黒と白の基調に調和する。鮮やかな青の印刷機が圧倒的存在感を放つため、彩色は最小限に抑えられ、むしろ多数のアート作品が空間に色彩をもたらしている。


ブロック社にとって芸術は創業理念と深く結びつく要素であり、経済的エンパワーメントという企業使命を反映した地元アーティストの公募作品10点が採用された。その象徴が、McKelvey(マッケルヴィー)が設立した「Third Degree Glass Factory」による3~4階吹抜けの天井インスタレーションである。吹きガラスの球体は印刷のインク滴を表現し、色調は印刷機のブルーに呼応する。
かつてピューリッツァーが「情報提供は人々に責任ある選択を促す」と信じたように、ブロック社も同じ理念を根幹に据える。新たに生まれ変わったこの建物は、その思想を空間の中に明確に継承しているのである。
INTERIOR DESIGN Magazine, June 2022
English text: Michael Lassell
Photography: Eric Laignel