
訳:メキシコ太平洋岸の風土に呼応するように、Ludwig Godefroy(ルートヴィヒ・ゴドフロワ)が手がけたブティックホテル「Casa TO」は、力強いコンクリート構造と豊かな自生植生が共存する静謐な空間として築かれている。(所在地:メキシコ)
── 静けさをかたちにする、熱帯に宿るコンクリートの祈り
メキシコ・オアハカ州にあるラ・プンタ・シカテラ。その静かな裏通りにひっそりと佇む「Casa TO」は、周囲の古代寺院に着想を得た、禅のような空気を纏うブティックホテルだ。設計を手がけたのはフランス人建築家の Ludwig Godefroy(ルートヴィヒ・ゴドフロワ)。太平洋南岸の一角に建つ延床約930㎡の建物は、美しいビーチとゆったりした空気を求めて集まるサーファーや観光客に、静謐な隠れ家のような時間を提供する。



海までは徒歩数分ながら、あまりの心地よさに滞在中一度しか海に行かなかったというゲストも少なくない、と Godefroy 氏は笑って話す。
「Casa TO」は、不動産開発会社 Surreal Estate と Godefroy 氏との継続的な協働の中で生まれた最新作である。当初は3棟の住宅を建てる計画だったが、観光業の急成長を受け、依頼主はこの敷地を2階建てのホテルへと変更できないかと相談を持ちかけた。 Godefroy 氏は「ゼロから始めるより、既存の構成を活かして面白いものにしましょう。」と提案したという。
── 構造に込められた水の建築へのオマージュ
設計上の最初の大きな転換点となったのは、もともと3棟の住宅を仕切っていたコンクリートの壁に丸い開口部を設け、ホテルのレセプションとプールを兼ねる共有ラウンジへと変えたこと。この大胆なアイデアは、イスタンブールの地下宮殿やロンドンのホーンジー・ウッド貯水池といった、水にまつわる歴史的建築の繰り返し構造に着想を得ている。ポータル越しに見えるシンメトリックな造形は、たちまちSNS映えするスポットとして人気を集めた。


メキシコの温暖な気候を最大限に活かすべく、共用部はほぼすべてが屋外に開かれ、空調設備も最小限。プールの水面を渡る風がラウンジを抜け、ゲストは熱帯植物に囲まれた床座のクッションや椅子でゆったりと過ごすことができる。「太陽や雨から身を守るオアシスのような空間をつくりたかったんです。」と語る Godefroy 氏は、ファサードにも在来種の植栽やヤシを取り入れ、視線と通風を確保している。
プールの反対側には、ホテルのもう一つの顔ともいえる大階段状のソラリウムが広がる。これは彼の設計にたびたび登場するモチーフであり、その原点には、15年前に初めて訪れたマヤ文明のピラミッドや神殿への深い敬意がある。モニュメンタルな力と精神性に心を揺さぶられたといい、ホテル名「Casa TO」の“TO”も、Templo Oaxaque(オアハカ寺院)に由来しているそうだ。


またそういった文化的要素だけでなく、Le Corbusier(ル・コルビュジエ)、 Louis Kahn(ルイス・カーン)、Carlo Scarpa(カルロ・スカルパ)といった20世紀のブルータリズムの巨匠たちからも影響を受けたという Godefroy 氏。「Casa TO」ではコンクリートを打ち放しのまま残し、光と植生とのコントラストを活かしている。
「現代社会の“使い捨て”とは逆の価値観で、地域に根ざした建築のような誠実さを追求したいんです。そうして辿り着いたのが、コンクリートという、時間とともに美しさを増す素材です。」と語る。
後編に続く ▶︎
INTERIOR DESIGN Magazine, November 2022
English text: Alyn Griffiths
Photography: Jaime Navarro