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        2025年6月5日

        horse sense | 格式と気品を纏う、ブラジル名門牧場の迎賓パビリオン(前編)

        訳: Studio Arthur Casas が手がけたのは、名門牧場に設けられた、娯楽用パビリオンとゲストハウス。血統馬たちの持つ自然な優雅さを引き立てるように、建築は周囲の景観と調和しながら、訪れる人を迎える洗練された場を創出している(所在地:ブラジル・イツ)

        写真:新設された迎賓・エンターテインメント施設のひとつ、ゲストハウスの前をルシターノ種の馬が通り過ぎる、手綱を引くのは厩務員

        ── 馬という「生きた彫刻」への敬意、 ルイス・バラガンに続く建築的応答

        人間が馬に魅了されてきた歴史は、まさに “本能的” とも言える。洞窟壁画にその姿を描いていた太古の時代から、馬は人々の想像力をかき立て、芸術や建築においても重要なインスピレーションの源となってきた。

        その中でも、ラテンアメリカ・モダニズムの象徴的作品として名高いのが、メキシコシティ郊外にある「サン・クリストバルの厩舎」。1960年代に、自身も熱心な乗馬愛好家である建築家 Luis Barragán(ルイス・バラガン)が手がけた「馬と人間の両者にとってのオアシス」とも言える空間だ。

        潔白な住宅もさることながら、パンチングウォールの施された薔薇色の厩舎や、水槽のような給水トラフ、L字型のエクササイズプールといった要素がつくり出す、質量と空間、色彩の巧みな構成によって、馬たちはまるで生きた彫刻のように引き立てられている。


        リビングの中心に置かれた独立型の暖炉を挟んで、Studio Arthur Casas がデザインしたソファを主役に構成された2つのラウンジスペースが広がる。左側には、Sigurd Ressel(シガード・レッセル)のファルコン・ラウンジチェア&オットマン、背後には Sergio Rodrigues(セルジオ・ロドリゲス)のトニコ・アームチェア、手前には Jorge Zalszupin(ジョルジ・ザルスズピン)によるジャカランダ材のコーヒーテーブル。右手にはビリヤード台を備えたゲームエリアが続く


        この伝統を現代に受け継いでいるのが、ブラジル屈指の名門・リュジターノ種馬牧場の「Coudelaria Rocas do Vouga(コウデラリア・ロカス・ド・ヴォウガ)」に、新たに設計されたレクリエーション複合施設。


        リュジターノ(Lusitano)はポルトガルに起源を持つ威厳ある馬種で、かつては軍馬として重宝され、現在は競技用や個人の乗馬用として高く評価されている。


        エンターテインメント・パビリオンの天井にはサンド仕上げの左官材、壁には焼杉、床には焼き締めコンクリート、さらに粗石壁を組み合わせ、自然素材の色合いと質感を室内に取り込んでいる


        今回の設計に携わった Studio Arthur Casas(スタジオ・アルトゥール・カサス)の代表である、建築家 Arthur Casas(アルトゥール・カサス)が依頼を受けたのは、馬の披露や来訪者のもてなし、商談、宿泊といった多目的に対応する内外空間の設計。トロピカルな感性とともに、モダニズムと現代性を融合させる手腕で知られる彼は、メキシコの巨匠へのオマージュを織り交ぜつつ、独自の建築言語で応えた。

        「馬は、私にとって最も美しい生き物。いつか、その馬たちを風景の一部として取り込むような建築を手がけたいと願ってきた。」と、彼は言う。


        バーとガラス張りのワインセラーを背景に、ダイニングエリアは床を一段下げた造りに。ビルトインのバンケットソファと円形のダイニングテーブルを囲むのは、Bernardo Figueiredo(ベルナルド・フィゲイレド)の籐張りチェア。中央には10人掛けのアンティーク調ダイニングテーブルが据えられ、Sergio Rodrigues(セルジオ・ロドリゲス)のレザー張りキャスター付きキコチェアが並ぶ。右手の階段を上がると、スパ、マッサージルーム、ジムへと続く


        ── 自然と建築を共生させる、持続可能なレクリエーション空間


        Casas 氏は、かねてよりサステナブルな建築に注力してきたという。


        「本音を言えば、自然にすべてを委ねて、建築そのものは “見えない” 存在にしたい。」と語る彼は、敷地の通風や自然光を最大限に取り込めるよう綿密に計画を立て、空調や人工照明への依存を最小限に抑えた。また、短期間での建設も重視され、構造体にはプレハブの鉄骨フレームを採用。工期をわずか10カ月にまで短縮し、建築廃棄物も大幅に削減した。


        この牧場のオーナーは、リュジターノ馬と同じくポルトガル系のルーツを持ち、祖国との結びつきも深い人物。その文化的背景を踏まえ、Casas 氏はポルトガルの田園貴族の邸宅・荘園 “Quintas(キンタ)” に見られる中庭や水盤といった意匠を取り入れながら、シンプルな低層の2棟〈約900㎡のエンターテインメント・パビリオンと、約500㎡のゲストハウス〉を設計した。建物のフォルムはモダンだが、内外装には石壁、木製の柱や梁、そしてポルトガルの象徴的な青と白の装飾タイル “azulejos(アズレージョ)” など、イベリア半島の田舎建築を想起させるマテリアルが使われている。


        ゲストハウスのエントランスの壁には、オーナーと名馬たちのルーツであるポルトガルの伝統的なアズレージョ・タイルが使用され、ランダムに配された絵柄が抽象的で洗練された印象を生む

        さらに、この建築群が周囲の風景と調和するよう、Casas 氏は多くの素材を地元から調達し、土や岩、炭のようなアースカラーのパレットを基調に構成。荒削りな石材、焼き杉、バーナー仕上げのコンクリートなどの質感と色調の違いが、素朴さと洗練が同居する独特の佇まいを生み出している。


        後編に続く ▶︎


        https://www.materialbank.jp/all/curated-collections/


        INTERIOR DESIGN Magazine, Fall 2022

        English text: Marisa Bartolucci

        Photography: Fernando Guerra