
中国南部に位置する写真スタジオ「Lanwuu Imagine」のプロジェクト。ここを手がけた「Aurora Design」は従来の枠組みを刷新し、訪れること自体が体験となる、新しい価値を備えた空間を創出した。(所在地:中華人民共和国)
“自宅” にいるかのような、スタジオ体験
── 自宅の寝室で服を試着しているような、親しみのある心地よさ
中国南部・昆明に誕生した写真スタジオ:Lanwuu Imagine(ランウー・イマジン)。
「Aurora Design(オーロラ・デザイン)」が手がけたのは、“体験” を重視した新しい空間のかたちだった。
一般的に、写真スタジオといえば、光・音・人の流れ・視覚的ノイズなど、あらゆる要素をコントロールするための閉ざされた空間だ。だが、中国雲南省の省都・昆明に誕生した Lanwuu Imagine は、その常識をくつがえす。設計を手がけたのは、現地の設計事務所「Aurora Design」の創設者兼チーフデザイナーである Xuewan Yang。彼女はこのスタジオを、自由な偶発性を受け入れる場として構想した。
特徴的な丸窓からは、1階に設けられたカフェやアートインスタレーションがのぞく。そこは、プロフェッショナルな撮影空間であると同時に、まちに開かれた“リビングルーム”のような存在だ。通りすがりの人々が気軽に立ち寄り、これまで閉じられていたスタジオという建築類型に触れることができる。

1. レセプションエリアへは、カフェと分けられた細長い廊下と開け放たれた出入口を通ってアクセスする動線設計により、撮影の静けさを保っている 2. 外から見たこの丸窓は、カメラのレンズを思わせるアイコニックなデザイン 3. ウェディングドレスの展示・撮影が行われるのは、丸型のライトボックス空間。内部には積み上げられたテレビや馬の彫刻などがディスプレイされ、独特の視覚的演出がなされている
Yang 氏は、住宅から商業空間、さらには受賞歴のあるティーハウスまで、空間における体験の質をデザインの中心に据えたプロジェクトを展開してきた。Lanwuu Imagine は、主にウェディングやポートレート撮影を専門とするスタジオ。Yang 氏自身も、Mushi や W といった中国のウェディングブランドの空間デザインを手がけてきた経緯があり、「従来型からの完全な脱却」に最適な設計者といえる。
スタジオの面積は約400㎡。住宅地の中にある工業的な建物という特殊性を活かし、Yang 氏は “建設中” のような意匠を導入した。ステンレスのブランドサインをピンクの足場で支えたファサード、大きく開く二折りの窓は、まるでガレージのよう。室内は、むき出しの天井やコンクリートの床・壁を残し、建物のラフな質感を活かしている。
空間のゾーニングは、コンクリートや大理石、金属、ベルベットなど、粗さとラグジュアリーが共存する素材で区分。家具は現代的なデザインで統一し、淡いピンクなど撮影に映える色調を選んでいる。
訪れる人の目的に応じて、足場の下からスタジオへ直行するルートと、レンズのような円形の入り口から入るルートがある。後者を進むと、マリンバーチのキャビネットやマガジンラックを備えたコーヒーバーがあり、その奥にはステンレスとコンクリートで構成されたケータリングキッチンが連なる。
カフェエリアの奥には、VIP用のコンサルテーションスペースが広がる。写真の世界観を意識して、片持ちフレームのような非対称の黄色い構造体で仕切られ、柔らかなラウンジチェアが配されている。背後の鏡面壁は、実はスタジオの一部を隠すもの。演出性を高める工夫だ。床には白黒ストライプのラグが敷かれ、視覚的なアクセントを添えている。
「ステンレスやミラーガラスといった反射素材、そして光の効果で、空間の境界を曖昧にしています」と、Yang 氏は言う。視覚の錯覚(トロンプルイユ)を応用することで、空間の奥行きや広がりを感じさせる設計がなされている。
光をコントロールする建築的仕掛け
── 過度に仕切らず、光が空間の隅々まで届く暗喩的なデザイン
こうした手法は視覚を欺く一方で、見る者の注意を引き寄せる力も持っている。スタジオのロビーとカフェは、磨かれたステンレスのパネルで囲まれた細長い通路でつながっており、シャッターのように開閉する日除けが備わっている。
ロビーの中心には、円筒形のライトボックスが設置されている。床にはローズカラーのカーペットが敷かれ、樹瘤模様の突板に包まれたその構造は、まるで眼球のような照明器具で頂部を飾られている。このスペースは主にウェディングドレスの展示や撮影に使用されるが、通りに面した大きな窓から外部にも開かれているため、ヤンは視覚的なインパクトを高めるために、積み重ねられた小型テレビや干し草をまとった馬の彫刻といった、意外性のあるインスタレーションを取り入れた。

1. 遠くにポータルを望む位置に設けられたVIPコンサルテーションスペースは、額縁を思わせる角度をずらした特注タイルの構造体によって空間が区切られている 2. コーヒーバーに設置された大型の二折窓が、空間全体にインダストリアルな趣を添えている 3. ピンク色の足場が、入口ファサードのステンレススクリーンを支えており、スタジオが常に“創造的改装中”であるかのような錯覚を演出している 4. スタジオ内の多くのシーンは、アートインスタレーションと撮影セットの間を行き来するような構成となっている
「眩い光と黒い馬、小さなテレビたち。これらは時間軸を混乱させるような不思議な効果を生み出します。現実と仮想が入り混じったような感覚をもたらすのです」と、Yang 氏は語る。これらの異質なプロップ(小道具)はすべて、地元の蚤の市で見つけたという。
自然光で魅せる、写真映えする空間構成
── 日常のスナップ写真を撮るようなナチュラルさも生み出せる空間
スタジオは、カーペット敷きの床や障子風のパーティションなど、住宅のインテリアを思わせるディテールによって、自宅の寝室で服を試着しているような、親しみのある心地よさが演出されている。バーエリアにもリビングのような雰囲気があり、空間全体に温もりをもたらしている。
撮影は最終的に建物中央に設けられたプライベートなブラックボックス状の空間で行われるが、Lanwuu Imagine のレイアウト自体が、日常のスナップ写真を撮るような自然な撮影シーンも生み出せるようデザインされている。
「このスタジオは、自然光の流れを妨げないよう開かれた構成になっています。過度に仕切らず、光が空間の隅々まで届くよう意図しています。」と言う Yang 氏。幾何学を用いた暗喩的なデザインとして、円形の窓はカメラレンズを思わせる意匠であり、実際にレンズの絞りのように光を拡散・調整する役割も担う。その他の開口部もすべて可変式で、時間帯や用途に応じて自在に調整できるよう設計されている。事務所や画像処理室などのバックヤード機能は2階に配置され、1階の空間の開放感を保っている。

1.「あなたを表紙の主人公に」という言葉が、撮影スタジオ前の磨かれたステンレスパネルに描かれており、ガレージドア式の引き戸を通ってスタジオに入る。この扉は、光のコントロール性能を重視して採用されたもの 2. スタジオ全体の面積は約400㎡(4,300平方フィート)。その内装の多くは、コンクリート床や剥き出しの天井など、あえて“ラフ”な状態で仕上げられている。 そこに、コンクリート・木・石・金属といったインダストリアルな素材を加えた介入が施され、空間に素材のコントラストを生んでいる 3.スタジオのフィッティングルームにも同じくステンレス素材を用いており、フォトブースのような空間がカーペットで包まれている 4. カフェスペースでは、DP Studioのテーブルとチェアに加え、LEDサインがアクセントとなり、洗練されたコーヒーバーとして機能している 5. 地上階の諸室と、上階に設けられたオフィスおよび現像ラボをつなぐのは、Lang Maの絵画で締めくくられるスチール製の階段
変化を受け入れる、“未完成” という完成形
── 変化を受け入れる「進行中のプロジェクト」
Lanwuu Imagine 自体が、常に変化を受け入れる “進行中のプロジェクト” でもある。
「私たちは、この空間を通して、刹那的な美しさや温かさを追い求める姿勢を伝えたいのです。」と Yang 氏は語る。
美や快適さの定義が時代や好みによって変化するように、それらを写し取る空間もまた変わっていく必要がある。“未完成” であることは、むしろこのスタジオの強みであり、Yang 氏自身がそうなるように設計しているというのが、ユニークだ。
INTERIOR DESIGN Magazine, August 2024
English text: Elizabeth Fazzare
Photography: Xin Na / Inspace Studio