
訳:ビデオゲーム —— ソフトウェア開発企業 Pricefx のプラハオフィス増築部分を手がけた「CollColl」は、マインクラフトのピクセル世界に着想を得て、遊び心あふれる立方体構造を空間に展開した。
写真:オーク突板仕上げのパーティクルボードを用いた巨大なピクセル状の構造体が、増床されたオフィスにおいて多機能的な役割を果たしている。(所在地:チェコ共和国)
変化に応える空間のロジック
ソフトウェア開発企業 Pricefx(プライスエフエックス)のプラハ・オフィスに、従来型のワークスペースはふさわしくなかった。価格設定支援ソフトを手がける同社のビジネスモデルは、常に変化の中にある。スタートアップから老舗の企業まで、日々刻々と変わるクライアントのタイプと数に応じて、創造的な対話を促す柔軟な空間構成が求められていた。
そんなニーズに応え、2016年に同社がオフィス設計担当に起用したのが、Krištof Hanzlík 率いる「CollColl(コルコル)」という、分野横断型の設計スタジオ。その名が示す通り、“協働的な集団”を意味し、柔軟な発想で空間にアプローチしている。今回も、オープンプランのオフィスビル半フロアに、ホットデスクやラウンジ・個室ブース・大小の会議室を縦横に組み合わせた、可変性の高いワークプレイスを実現した。

1. 職場の“遊び心”を象徴するすべり台の出口 2. カフェスペースには Patricia Urquiola による「Glove-up」アームチェアと CollColl がデザインした「pfx 02」テーブルが設置されている 3. 構造体の端にはビリヤード台を備えたジムエリアも 4. この構造体にはオリジナルフロアと新設フロアを結ぶ、特注のステンレス製トンネル型のすべり台と階段が組み込まれている 5. カフェバーを兼ねた Studio Vono の「Nyiny」スツールが並ぶ受付カウンター。カウンターの前面にはLEDグリッドが仕込まれ、インタラクティブなビルボードとして企業ロゴなどがピクセル状に映し出される
その後、2018年に全フロア9,000平方フィートへとその空間を拡張し、新型コロナウイルスのパンデミックでオフィスの存在意義そのものが問われる中、2020年にはさらなる拡張を決断する。 柔軟性への要求が、かつてないほどに高まっていた Pricefx 社は、下の階へ進出するにあたって再び CollColl を起用した。
実験的かつ商業的プロジェクトを手がける、アヴァンギャルドな小規模スタジオである CollColl。今回のプロジェクトでは、従来の「部屋」という概念を超える、流動的でオープンな空間構成を提案した。
「完全に分かれた部屋ではなく、程よく分節された流れるような空間をつくりたかった。」Hanzlík 氏と、そのビジネスパートナー Šimon Kos 氏は語る。そうして、頻繁に社内外のイベントを行い、人の往来が絶えない Pricefx 社のニーズをダイナミックに落とし込んだ空間が出来上がった。

1. 段状のシーティングとして機能するこの構造体は、内部に収納スペースも備えている 2. Antonio Citterio による「Unix」チェアと「Ad Hoc」テーブルが並ぶミーティングルームには「Vela Evo」のペンダント照明が柔らかな光を添える 3. ビニール床材が採用されたカフェスペースには、CollColl が手がけた「BendOver」ソファと、その上に「Sysloop」の六角形LEDグリッドが浮かぶ 4. 16インチ(約40センチ)四方のキューブで構成された構造体内には、ひとときの休息を誘うビデオラウンジも
ワークプレイスの未来は“遊び”から
上下階をつなぐのは、なんとステンレス製のチューブ状すべり台。新しいエントランスへと滑り込むこの遊具のような装置が、このオフィスの“遊び心”を象徴している。創造性を刺激する職場において、“遊び”は重要な要素なのだ。
その精神は、受付にも表れている。受付カウンターはコーヒーステーションを兼ねており、さらにLEDのグリッドが内蔵された半透明の面材により、ロゴを含むピクセル画像が映し出されるインタラクティブなビルボードにもなる。隣には、ビリヤード台やサンドバッグを備えた“ジム”エリアがあり、社員が実際に”遊べる”スペースとして機能している。ここにも、カジュアルで自由なコミュニケーションを後押しする空間的な仕掛けがある。
とりわけ難題だったのは、「50人が着席できるワークショップ用の会議テーブルが欲しい。」という要望だった。以前のオフィスでは、その半数しか収容できなかったという。
CollColl は、単なる会議室を設けるのではなく、約長方形のフロアの片側を、7組のガラス製ダブルドアで仕切れるよう設計した。両端に窓を持つ、建物の端から端までを貫くフレックススペースを生み出すことで、6人掛けのデスクが6列並ぶところを、必要に応じてその延長部を接続することで、最大50人が着席可能な長テーブルに早変わりする。ドアを閉じれば、即席の大会議室が出現。可動式のパネルで空間を分割し、小規模ミーティングにも対応できる。
マインクラフトに着想を得た、ピクセル発想のオフィス空間
CollColl にとって最大の建築的課題は、上下階をいかにしてスムーズにつなぎ、人の流れを妨げない空間をつくるかだった。そのヒントとなったのが、インタラクティブなビデオゲーム『マインクラフト』。レゴのようなブロックを足し引きしながら、3D空間を自由に構築できるこのゲームは、キューブの組み合わせだけで建築や地形をつくる感覚を教えてくれる。
もうひとつの着想源は、建築模型づくりに見られるボックス構成の考え方。仮に同じ形状でも、大きさが変わることでその役割や印象はまったく異なる——小さければロッカー、大きければ部屋や建物にさえなる。仮想でも物理的でも、その原理は同じだ。
こうした考え方のもと、建築家たちはまず床に空けた穴のまわりに、約40センチ四方のキューブを積み重ねることから階段の設計を始めたという。
「気付けばまるで、コンピューターゲームの中にいるようなピクセル的構造の世界が出来上がっていた。」と Kos 氏は語る。

1. AVスタジオに備えられた最新鋭の機器 2. 間接照明が空間をやわらかく照らすLED内蔵のシーティング・グロット(くぼみ席)3. 光のグリッドの背後には、吸音効果を持つ天井用アコースティック・フォームを設置 4. Studio Bouroullec による「Joyn」デスク6台にエクステンションを加えることで、50人着席可能な会議用テーブルが出現。チェアは Barber Osgerby の「Tip Ton」を採用した 5. オフィスのLED天井グリッドは、通りからもその光が確認できる
その結果として生まれたのは、オーク材のキューブで構成された“二層のプレイグラウンド”。段丘のような傾斜、小さな崖や谷、岩のような造形が連なるその風景は、抽象的でありながら明確な機能性を内包している。
「キューブを“引く”ことで、思いがけない空間が現れるんです。」と Hanzlík 氏は言う。いくつかのブロックは収納や個人ロッカーとなり、別のエリアではベンチ付きの観覧席が段状に広がる。半分にカットされたキューブは階段の踏み板となり、その横を滑り台が駆け抜ける。内部にはストレージも隠されている。
キューブ構成のランドスケープは、フロア反対側の50人会議室の隣にも繰り返されている。床から天井まで積み上げられた構造体は、ミーティングの合間に腰かけたり、ラップトップを持って彷徨う社員の居場所にもなる。
そうやって、CollColl の作り上げたこの可変的なワークプレイスは、多機能な場であると同時に、絶えず変化するこの職場のなかに確かな“居場所”を生み出している。揺れ動く世界の中に、ひとつのランドマークを刻むように。
INTERIOR DESIGN Magazine, June 2023
English text: Joseph Giovannini
Photography: BoysPlayNice