
今回は、マテリアルバンクに掲載中の「日本エムテクス株式会社」より、代表取締役の三浦さんに、実際に施工されているという声も多い〈塗るデニム〉についてお話をお伺いしました。
はじまりは、“面白いゴミ” との出会いから
── マテリアルバンクにも掲載いただいている〈塗るデニム〉。本当に新しい素材ですよね。そもそも、どうして〈塗るデニム〉という発想に至ったんですか?
三浦さん:僕のまわりに「ゴミ仲間」って呼んでる人たちがいましてね。いろんな廃材を集めて「こんなのあるよ!」って見せ合うんです。その中の一人から、「面白い廃材が出てるよ」って連絡があって。それがデニムの廃材だと聞いた瞬間、「絶対見に行きたい!」ってなって、実際に現場へ連れて行ってもらったんです。
実際にデニムの裁断くずを見た瞬間に「あ、これ面白いな。」ってピンときました。しかもデニムって、嫌いな人が少ないじゃないですか。それも魅力でしたね。

── たしかに、デニムってファッションとしても身近で、親しみがありますよね。
三浦さん:そうなんです。それで、僕たちはもともと左官材からスタートしたので「これ、塗れるんじゃないか?」と考えました。昔の「繊維壁」を思い出して。祖父母の家のふわっとした、繊維が混じったキラキラの壁。あれって昭和30年代くらいまでは当たり前にあったんですよ。でも、高度経済成長期に入ってビニールクロスが主流になった。施工が簡単で安いから、繊維壁はどんどん姿を消してしまったんですね。でも今でもホームセンターで細々と売ってたりして、おじいちゃんおばあちゃんの家を直す職人さんが、昔ながらのやり方で塗ってたりする。それってもう文化じゃないですか。僕はそれを“復刻”したかった。

燃える素材なのに、不燃認定?
── 素材としてはすごく面白いですが、商品化までにはいろいろと苦労もあったのでは?
三浦さん:やっていくうちに「これ、塗りにくいな」とか、いろんな課題が見えてきて。特に大きかったのが「不燃性」の問題ですね。商業施設で使うには不燃材料じゃないとダメなんです。でもデニムって、そもそも綿だから燃えてしまう。
── 燃える素材なのに、どうやって不燃認定を?
三浦さん:当初は、そもそも燃える素材を原料として使用していて、デニムの質感を残したかったので非常に困難でした。しかも接着剤を使用せず、目的を果たした後に土に還ることを狙っていたので、特殊加工だけは避けたい。そこで試行錯誤し、不燃認定を取得しました。付箋ってあるじゃないですか?あれも、もともとは失敗作の接着力の弱いテープから生まれたらしいんです。
── なるほど、面白い視点ですね。ですが、材料づくり自体にも手間がかかりそうです。
三浦さん:それも大変でした。最初、デニムの裁断くずを手で1センチ角くらいにハサミで切ってたんですよ。試作の段階ではスタッフ全員で手分けして。でも当然、それじゃ量産なんて無理だから、破砕専門の工場を探して、ようやく安定したふわふわの素材ができるようになったんです。
塗り材としての「質感」も大きなポイントで、最初は接着剤で固めようとしたんですけど、それだとガチガチになってしまって。触ったときに「わ、デニムだ!」っていう感触がなくなる。面白くないんですよ。それじゃ人に自慢できない。だから代わりに、ソフトクリームの粘度調整とかに使われるような「のり」を試したんです。すると、ふわっとした質感が残って、ちゃんとデニムの手触りも感じられるようになった。それがすごく大きかったですね。
── でも、その「固まってるようで固まってない」って製品化が難しそうですね。
三浦さん:大手だったら絶対「これはダメ」って言うと思います。でも僕らは逆にそこを “良さ” にしたいなって。付箋ってあるじゃないですか?あれも、もともとは失敗作の弱い接着剤から生まれたらしいんです。僕らの材料も、水をかけたらもう一度塗り直せる。たとえば10年、15年経ってリフォームしたい時、水で溶かしてもう一度塗ればいい。それって、けっこう面白いでしょ?
弱点を武器に、SDGs時代が後押しする“直せる建材”
── 水で溶けるという話がありましたが、それって一般的には “弱点” になりかねないような気もします。
三浦さん:そう、普通ならアウトですよね。でも逆に今の時代だからこそ、そういうユニークさがむしろ面白いし、環境にも合っている。例えばリフォームのときって、既存の壁材を剥がして捨てて、新しいものをまた塗る。つまりゴミも二重、輸送でCO2も倍。でもこの素材なら、自分で水をかけて補修すれば、それらの手間も排出もほとんどなくなるんです。理にかなってるなと思って。
さらに、やってるうちに気づいたのが、ヨーロッパで「修理する権利(Right to Repair)*」っていう考え方が出てきたこと。確か2020年頃、オランダ発だったかな。それが、EU全体に広がって。たとえばパソコンとかでも、ちょっと壊れただけで全部取り換えっておかしいよね?って。メーカー側の都合で修理不可にするっていうのは権利に反してる。
「修理する権利(Right to Repair)」とは、購入した製品を、メーカーに依頼するだけでなく自分で修理したり、自分が選んだ修理業者に依頼したりできる権利のこと。環境への影響を減らし製品の寿命を長く保つために、欧米を中心に広まっている。
── 確かに。それって、使い手に「直す自由」を与えてくれる。建材も、まさにその考え方が応用できますね。
三浦さん:もしかしたら「塗るデニム」って、その流れの先を行ってたのかもしれない。水で溶かして補修できる、15年後に壁を変えたいと思った時も、自分で塗り替えられる。その「直せる自由」を建材に持たせるって、実はすごく現代的なんですよね。僕にとっては「環境にいいから」っていうのはもう当たり前の前提で、その先に “直せる” っていう価値があるんじゃないかと思っています。
『みんなで塗る』から広がる、塗るデニムの輪
── 「塗るデニム」ですが、いろんな場所で使われているそうですね。反響はどうですか?
三浦さん:反響、ありますよ。特にインスタにあげてくれる方が多くて。写真映えするし、名前もわかりやすい。「あ、あれ塗るデニムだ!」ってパッと伝わるのは、建材としてはすごく珍しいと思います。

1. Material Bank Japan のスタッフも挑戦してみるも、もちもちとした質感のデニムをコテで塗るのがなかなかむずかしい 2. ご用意いただいた練られた状態の〈塗るデニム〉3. 体験会を担当している日本エムテクスの上原さんに、塗り方のコツを教えていただく
名前のインパクトって本当に大きい。あと嬉しかったのが、某メーカーさんと一緒にやったプロジェクトで、保育園をつくるときに親子参加型の「塗る体験会」をやったんですよ。家庭で必要のなくなった洋服を持参してもらって、午前中は子どもたち、午後は中高生、夕方は大人って、順番に来てくれて。しかも手袋なしで素手で塗れるから、すごく自由に楽しめる。子どもたちが最後にアートみたいに仕上げたのもすごくよかったです。
── それは楽しそうですね!そして、建材の認知にも繋がる。
三浦さん:“建材” って本来は業者だけのものになりがちだけど、「体験できる建材」っていうのは、実は集客や地域のコミュニケーションにもなるんですよね。そのメーカーさんとのご縁もそこから始まったし、その他の企業さんなど、僕らが普段から親しんでるブランドでも使われ始めてて、ほんとに嬉しいです。
── そうしたリアルな接点の延長で、「体験会」の価値がまた高まりますね。
三浦さん:まさにそうで、体験会では、まず「なぜ塗るデニムが生まれたか」という背景から話します。突然生まれた素材じゃないので、まずはそこを知ってほしくて。実際にご自身で塗ってもらった板は、乾燥後に参加者の皆さんに返送するんです。自分で塗ったものが “作品” として返ってくるって、嬉しいじゃないですか。
── 確かに、自分で塗ったデニムが戻ってきたら愛着湧きますね。
三浦さん:そうなんです。触れば触るほど好きになる。プロの方にも、一般の方にも。最近では「ホワイトデニム」も完成して、試験販売を始めたところです。ホワイトが出ればもっといろんなシーンで使ってもらえるはず。だからこそ、体験会で “触れる” っていうステップはとても大事なんです。

1. 専用のボードに適量を乗せていただき、いざ体験!2. 塗料になる前の粉砕されたデニム
3. もう一人のMBJスタッフは手際良く上手に仕上げる
インタビューを終えて
「塗るデニム」が単なるマテリアルではなく、人と空間をつなぐ “体験” として広がっていることが、今回のインタビューを通じて強く感じられました。素手で塗れる安心感、誰もが使用できる自由さ、そして自分の手で仕上げた壁に街の中で会える喜び。それは、建材の枠を超えて、ものづくりの楽しさや空間との新しい関係性を教えてくれるようです。
もしこの記事を読んで「ちょっと塗ってみたいかも」と思った方がいたら、ぜひ体験会に参加してみてください(体験会へのお申し込みはこちら)。そして、空間にマテリアルを取り入れてみたいと感じたら、気軽にサンプルを取り寄せて、まずは触れてみてください。きっと、あなた自身の“塗るデニム”との物語が始まるはずです。

日本エムテクス株式会社 代表取締役 三浦 征也さん
今回お話を伺ったのは、
日本エムテクス株式会社 代表取締役 三浦 征也さん
同社は、建築資材、インテリア、雑貨等の製造・販売を行っている。もともとは三浦氏の父が興した工務店であったが、三浦氏が後を継いだ後、現在の事業内容へと徐々に変えていった。